秋の真ん中

 

午後3時過ぎに用事で町へと下った。

冷たい雨が降り 空は灰色で

山は雨の靄に包まれ

木々の葉は 急に黄色に色づき始めた。

 

11月に入った途端に秋だ。

小屋のそばの木蓮や栃の葉が

いつになく美しい黄に色づいた。

 

少し忙しい日々が続き

図書館から借りている本もそのままで

読まずに 返してもいいと思う。

あれもしなければ これもしなければと

大したことでもない事に

心を煩わすのはやめた。

 

町への往復の車の中で そんな風に思い 

それがすごい事を決断したかのように

気分が軽くなった。

 

いよいよ秋の真ん中だ。

明日からは いいお天気だとニュースが言う。

明るい毎日が続くのが嬉しい。

無花果(いちじく)

 

友達から貰った「城陽のいちじく」

 

洗って皮のまま 

又は 手で皮を剥く。

その時の気分で食べ方が変わる。

 

手に果汁がつくのが嫌な時は

二つに切り スプーンで食べながら

切り口の美しさと 果汁の艶やかさを愛でる。

 

子供時代 

いちじくは 家の空き地に植っており

夏にはその木に トカゲが

艶のある体を 陽にあててじっとしていた。

よく熟れたいちじくを 木から採り

友達と他愛のない話をしながら食べた。

これは数人の友達の家 近所の家での思い出だ。

 

いちじくは 買うものではない

近所の庭のを採って食べるという思い出。

私がスーパーで見るいちじくを 

高いと思ってしまうのは こう言う事だ。

峠まで

 

京都から 夫の友達二人がやって来た。

一年振りの訪問。

いいお天気でよかった。

 

昼ごはんを済ませ 

今日の訪問の目的の一つ 若狭湾が見える峠まで

友達の車に乗って出かけた。

 

うちから 峠までの登り口は近い。

そこからまだ紅葉には早い山道を車で登る。

空は広がり 見上げていた山並が下に見える。

 

この峠は 京都 滋賀 福井の

県境が一つになる 峠でもあり分水嶺でもある。

 

ブナはすでに落葉して ヤドリギが絡みつき

若狭湾に浮かぶ島が霞んで見えた。

 

広い空に 雲が浮かび 山々は 下に広がる。

数年振りで来た峠は 風もなく 穏やかだった。

 

近くなんだから 度々来よう。

来るたびに そう思う。 

藤袴(フジバカマ)

 

 

フジバカマ

一昨日の事だ。

いつもは車で通り過ぎる集落の道を歩いていた。

明るい日差しだが 冷たい風が吹く昼下がり

車も人もいない道は まるでいつか観た映画の中の

意味ありげな道のようだと思った。

そんな所に くすんだピンク色をした

フジバカマが群れて咲いていた。

 

急ぎ足で歩いてはいたが

ズボンのポケットからスマホを出し

強い風で揺れる花の群れを 何枚か撮った。

 

歩いていたからこそ 出会った花の群れ。

それは 私にとって小さな驚きだった。

甘くない柿

 

三個の柿を器に入れ テーブルの上に置いた。

大きな柿で 窓から射す陽の光を受け

それらは 

深とした静物画のようだ。

 

「全然甘くない」と悲しそうな顔をして

チャックが持って来たこの柿は

チャックが言う渋柿ではないと思う。

まだ固く 色も浅く 香りがない。

長い目で この柿の成長を見守ろう。

甘くなれば嬉しいし そうでなくてもいい。

 

今日も 雲ひとつない気持ちのいい1日だった。

ピンク色の藤袴(フジバカマ)が群れて

時おり吹く強い風に みんなで揺れた。

 

近くの道路脇の温度計が 8度を表示していた。

夕方に私は ライトダウンのジャケットを着て

ぬくぬくと心地よかった。

忙しない日々

 

忙しない日々を送っている。

 

滅多にない イラストレーターを使う仕事をしたら

忘れている事が多くて 長い時間を

パソコンの前で過ごす事になったり

山形から久しぶりに友達が京都にやって来

夫と二人で会いに行ったが 珍客が参加して 

思いの外時間がかかり 疲れ果てて帰宅したり

さつま芋の蔓で「佃煮を作ったら美味いぞ」と貰ったので 

刻み昆布と生姜の千切りを加えて

甘辛味で「ちゃんと」作ったり

掘りたての小芋を貰い それで芋ご飯を炊いたら

口の中や 唇がイガイガしたので

勿体無いと思ったが 土に埋めた。

 

今日も 歩けば汗ばむほどの

いいお天気だった。

遠くで 何かを燃やしているのか 

白い煙がゆっくりと立つのが見えた。

私の好きな景色だ。

夕方には 霧のような雨が降り始め 

辺りの空気が冷たい。

 

まだ紅葉には早いけれど

車やバイクの列が 小屋の前を

頻繁に走るようになった。

完璧な秋の一日

 

完璧で美しい秋の1日だ。

空気は乾いた キリリとした冷たさに満ち

雲一つない 空が広がる。

 

鴨の小さな群れに 久しぶりに出会い

蝶なのか 小さな鳥なのか

見分けのつかない飛行の群れが

旋回しながら 移動する。

 

首に 薄い濃紺の木綿のストールを

ぐるぐる巻くと 暖かい。

 

淡い薄紫の花が咲き 葉っぱの残った

赤紫蘇の茎を 一抱えももらった。

綺麗な葉っぱだけを摘み

麺つゆとごま油で和え 

炊き立てご飯を包んで食べた。

 

花の咲いている茎は

大きな広口花瓶にたっぷりと生け

そして

花が終われば 紐で束ね 小屋の中につるそう。

小屋の中が甘く爽やかな香りで 満たされるはずだ。