大津市 瀬田
苔の上に
パラパラと散りばめられた
どんぐりと枯葉。
立ち止まり
腰をかがめて
覗き見る。
自然の造形の美しさ。
枯れて落ちてきた葉の完成度。
青いどんぐりが茶色に変わり
落ちた今が到達点。
「完璧だ」と私が言う。
朝の木洩れ日を浴び
黙した人達の足音を聴きながら
風が吹かない今日を
ゆったりと寛いでいる。
と 私にはそう見えた。
10月は本当に雨の多い月だった。
からりと晴れた日もあったのに
ずっと雨が降っていたような気がする。
一面に苔の広がる原を歩くと
靴がふんわりとした苔に沈み
その下は
たっぷりとした水だ。
小さな茸は 苔の間から
こっそりと顔を出す。
崖に張り付いた苔
山の中の苔
原に広がる苔。
雨水をたっぷりと吸い
活き活きとしている苔の緑。
灰色の空から
霧雨が降り続いた一日だった。
小屋の中の木のスプーンやフォークも
薄いカビで覆われた。
夕方
慌てて図書館まで
車を走らせた。
夫の愛車 軽トラである。
本を返し
そして予約本を受け取る。
「キネマ旬報」2冊。
人口2500人程の村の
とても立派な図書館で。
表に出ると
あまりにも美しい
夕焼け空が目の前にあった。
暗くなる前にと 帰りを急ぐが
まあ いいだろう。
ローソンで
薄くて甘くて熱いココアを買い
図書館の裏の土手の階段を登った。
久しぶりだな。
私の期待を裏切らない風景。
広い川の向こうは比良山系。
その上に浮かぶ バラ色に染まりかけた雲。
そろそろ散り始めた
桜の紅葉した葉っぱが階段や土手に
吹き溜っている。
静かな華やぎだ。
雨で湿った
簡素な木のベンチに座り
熱いココアを啜り
広がる景色を愛でる。
「ふー・・・」
帰り道にある
三つのキャンプ場は
何組ものテントが張られ
灯りが漏れている。
夕暮れに見る
テントの中の灯り。
小さな感動を覚えた。
うちの小屋の灯りが小さく見える。
さあ 帰ったぞ。
「ただいま〜」