雲が南から北へ
形を変えながら
早足で過ぎてゆく。
速い 速い。
山の木が
強い風でうねる姿に
不安になる。
遠い昔
私達の祖先が
木や岩 山や海、火に
神を感じたのはこう云う事なのだろう。
山の中で
何かの視線を感じ
ふっと後ろを振り向いてしまう。
自然は私達を包み込む
優しいものでもあり
怖くもある存在だと
山の中に住んで知った。
めったにお目にかかれない動物。
狐と兎。
もう何年も前
薄暗くなった夕方。
私が運転する車の前を
子犬かと思われる動物が
とことこ走る。
ヘッドライトを消し
ゆっくりと後を追う。
その小さな動物は
ピョンと石垣に飛び乗り
頭をこちらに向けて私を見た。
子ギツネだ!
ラディッシュの種を花壇に蒔いた。
柔らかそうに出揃った葉っぱ
と、思っていたら何かが食べる。
それを何回か繰り返していたある日
カフェオレみたいな色をした兎が
大きな耳を立てて
道の真ん中にちょこんと座り
なにやら考え込んでいた。
「おやおや、犯人はあんたなんだね」
それ以来
兎には出会えていない。
深い山の中でどうしているの?
土に埋めた生ゴミを
深夜の決まった時間に掘り返しに来る狐。
「大したものを埋めてなくてごめん」
逞しい動物達
元気に生き延びておくれ。
会う人が必ず言う
「今日は暑いねぇ」
暑い日中が過ぎて
月が山の向こうから
顔を出す時間
空気が冷えて
とても気持ちがいい。
朝 カーテンを開けると
外は厚い霧だった。
何も見えない白い空間も
太陽の光が射すと
スッと消えてしまう。
冷たい霧の朝。
緑が輝く早や夏が来たのか
と、勘違いしそうは昼間。
太陽が山陰に姿を隠す涼しい夕べ。
薄い雲の向こうに見える
大きな月。
深夜にうちの前を
自慢の大きな尻尾を揺らし
忙しそうに橋を走って行く狐。
山の中の狭い谷筋での暮らしは
夜も面白い。