50年程前、トラックに満載の陶器を積んで、瀬戸からこの山奥の村に売りに来ていた。
ここらで一番の金持ちの家で「今日は全然売れん。これでは瀬戸に帰れんわい」と陶器屋が弱音を吐いた。
すると、金持ちの主人が「全部、置いていけ」とトラック一台分の陶器を買ってやった。
この近辺でのちょっとした語りぐさだ。
その家の前に、大きなすり鉢が燃えないゴミとして出されていた。
「あの時」の一つかも知れない。
何に使うでもないが、「とにかく貰っとこ」
荒い土をロクロで引いて、内側のスジを竹ぐしで付けて、鉄釉のかかった立派な昔のすり鉢。
家で何十人もの接待をしない今の時代。
不用になってゴミに出されたんだな。
さて、捨てるに忍びないこのすり鉢。
野菜でも入れて、もう一度働いて貰う事にしよう。
「いいよね?」