オウレン(黄連)
オウレン(黄連)の花が
春一番に咲くのを
忘れていたよ。
踏んでしまいそうな
ひっそりと静かな花だ。
梅の花も
姿さえも見せていないのに。
乾燥した根を煎じると
良質の漢方薬に。
胃腸薬、精神安定剤。
コーヒーや紅茶の様に
熱く淹れた黄連のお茶を
ポットからカップに注ぐ
というのはどうだろう。
鼻先をくすぐる苦い香り。
考えるだけで
心が静まりそうな
そんな気がする。
よく晴れて
日差しも明るい日。
でも
この風の強さはどうだ。
朝
太陽が山の上から顔を出すと
夜の間に降りていた霜が
煙の様に水蒸気を上げている。
山際の日陰から流れ出る伏流水が
長い氷柱になっていた。
カラスが鳴いて群れている。
「春が来た」と慌てて出て来た動物が
寒さで行き倒れたのか。
春の使者の空色の花
オオイヌノフグリもまだ咲いていない。
1986年刊
1980年代の半ば。
私はアメリカのテレビドラマ「私立探偵スペンサー」を
深夜にドキドキウキウキしながら見ていた。
確か、ビデオもない時代だった。
ロバート・B・パーカーの探偵小説
「スペンサー」シリーズのドラマ化。
ハードボイルドの探偵のイメージ。
出がらしのコーヒーを
散らかった部屋で飲み
着古したコートを引っ掛けて
街に出て行く。
そんなイメージを払拭した
スペンサーの作る料理は
実質的で懐かしい家庭料理だ。
「田舎風パテ」「カボチャのスープ」
「鶏とマッシュルームのクリーム煮」
「フライド・グリーン・アップル」
「ホットビスケット」「ルーバーブパイ」
「ふすま入りパンのピーナッツバターサンドウィッチ」
等々 等々。
小説、ドラマの中でスペンサーの作る料理。
それを一冊の本にしたのが
「スペンサーの料理」だ。
何度となく読み返し
いつの間にか
私の料理になったものも幾つか。
舞台になっているボストンの描写
事件の謎解き
そして
スペンサーの作る料理が楽しみで
次々と小説を読んでいった。
30年程前の事だ。